――Two wishes and hope
 〜 七夕 〜  ――  







7月7日。
その日、秋山は何時も通り城戸の部屋へと来ていた。
本日の手土産はアトリ店主であるサナコさんから渡されたアマゾンの幼虫の佃煮。
本人曰くなにやら万秒の薬だとか。
そして、ユイとカンザキからは紅茶とケーキを。
どちらを食べるかは目に見えている気がするが、どちらも喜ぶだろうと秋山は城戸に持っていった。

「城戸」

何時ものように受話器越しに呼びかける。

『蓮、入っていいよ』

許可を得てから中に入る。
何枚もの扉を潜り抜け、部屋へと入った
何時もであれば城戸は雑誌を読んでいるか、秋山のために紅茶を入れているか等しているのだがその日は違った。

「城戸?」

その日の城戸は、落ち着かない風に部屋の中をあちらこちらに歩き回っていた。

「あ、いらっしゃい蓮」

呼びかけても返ってくる返事はどこか心ここにないもの。
テーブルにおいてある雑誌をぱらぱらめくると、次はテレビをつける。
直ぐにテレビを消すとラジオをつけたり。
そんな城戸を不審がって見ていると、先ほどから時計をすごく気にしていることに気がつく。

「時計がどうかしたのか?」

一先ず持っていた荷物をテーブルに置き、問いかけるが、城戸は一度秋山に顔を向け、苦笑を浮かべるとゆるく首を横に振った。

「そういうわけじゃないんだ・・・今日手塚君が来る予定なんだけどさ・・・」

手塚と今日会う約束そしているらしく、時間は正午だという。
因みに今は10時だ。少なくとも2時間はある。

「まだ時間は先だろう?」
「うん、そうなんだけどさ・・・・」

秋山の言葉に頷きはするものの、城戸はやはり落ち着かない様子で部屋の中でうろうろとするばかりだった。
そんな城戸を少し心配し、秋山は椅子に座るよう促す。城戸は椅子に座るものの、やはり何処か落ち着かない。
何故手塚が来ると言うだけでこれほど落ち着かないのだろう。
秋山は変な嫉妬心と疑問を浮かべながら城戸を見ていた。
そんな城戸は秋山に気づかず、部屋の一角に視線を向け、再び時計を見て小さく溜息をついた。
その視線の先をともに目で追った秋山は、部屋に立てかけるように置いてある、大き目の笹に気がついた。
飾りは折り紙で作ったのだろう、色とりどりの飾りと短冊が飾られてあった。
そういえば数日前、城戸に短冊を渡されたことがあった。その場で書けと脅されしぶしぶ何か書いたのだ。
其処まで考え、秋山は気がついた。

7月7日。

確かに七夕であるこの日は、前の時間の中で手塚が死んだ日でもある。
そのことを思い出した秋山は、慌てて城戸に視線を向ける。
城戸はやはり秋山の視線に気がつかず先ほどと同様時計を気にしていた。
秋山が何か言おうと口を開いた時、

『城戸起きているか?』

手塚の声が、部屋の中に響き渡った。
その声に、城戸は慌てて近くの受話器を持ち、

「手塚君!」

酷く安心したような喜んでいる顔を浮かべた。
そういえば、手塚の今際の際に立ち会ったのは城戸だった。
ユイもいたらしいのだが、手塚は城戸の腕の中で死んだのだと聞いていた。
それがどれほど今に影響しているのか、今の秋山には計り知れない。
計り知れないが、今の城戸の表情を見ればその深さはどれほどの物なのか予想がつく。
暫くして、手塚は部屋の中へと入ってきた。

「秋山もきていたのか」
「ああ」

こちらを見る手塚は何処か楽しそうに笑っている。
そして、その手にはスーパーの袋を持っていた。

「それは何だ?」
「ああ、これはアレの飾り付けだ」

そう言った手塚は部屋の隅にある笹を指した。

「この日は、城戸と一緒にアレの飾りつけをすることになっている」




飾り付けを終え、城戸は機嫌よく紅茶を入れ始めた。
そんな城戸を見ながら秋山と手塚はテーブルに向かい合い座った。

「もう、落ち着いたようだな・・・」

手塚は城戸の様子を見ると安心したように小さく息を吐いた。

「どういうことだ?」

手塚の言葉に秋山が問いかけた。

「前の話だがな、俺が城戸に初めて会いにきた次の年から、城戸はこの日になると発作を起こすようになったんだ」
「発作?」
「ああ、発作といっても軽い過呼吸になる程度だったんだが・・・・」

手塚達が始めて城戸に会ったのは8月。
そのときは何ら変化は見られなかった。
しかし、翌年の7月1日。毎年恒例なのだという、七夕の飾り付けに手塚が出向いた際、城戸の様子が少しおかしかった。
おかしいと言うには微妙すぎて、どう表現したらよいのか分からないが、とにかくおかしかったのだ。
そして、飾り付けが半ばほど終わったところで今日は帰ることとなった。
そのとき、城戸は手塚に「必ず明日も来て」と、手塚の手を強く握り締めそう言った。
手塚は幾分不審に思いながらも頷き、その日はそのまま帰り、次の日は朝から城戸の下へと向かった。

そして、七夕当日。
その日、手塚は学校の用事で少し帰りが遅くなっていた。
朝も朝で日直だったために、早めに来なくてはいという理由から、城戸のところには行けなかった。
教室内にかけられている時計に目を向けると、午後5時を示している。これから城戸の下に向かうにも、さすがに遅いかと、明日朝に会いに行こうかと考えてい た時、学校内の放送で手塚は呼ばれた。
今から帰ろうとした時に、更に教員から用事を押し付けられるのかとうんざりしながら職員室に出向くと、何やら少し慌てた担任に電話を押し付けられた。
電話口に耳を当てると、聞こえてきたのはリュウガの怒鳴り声だった。

『今すぐ真司のところに来い!!』

その声には怒りと焦りが含まれていて、手塚は何かが起こったことを瞬時に理解した。

「何があったっ!?」
『何もクソもあるか!!いいから早く!!竜馬を迎えによこす!!』

手塚は電話が切れる音とともに、足元に置いておいた荷物を引っつかむと職員に挨拶なく慌てて外に飛び出した。
そのまま上履きを履きかえる時間も惜しく、外に飛び出すと校門にはエンジンがついたままのバイクに跨っている一人の青年がいた。

「手塚海之!!」

名前を呼ばれると同時に放り投げられたメット。
慌ててそれを掴むと、自らそれを被り、青年の後ろに座った。
そのままスピード違反で捕まるのでは思うほどのスピードで街道を走りぬけていく。
運よく警察にも捕まらずに病院に着くと、竜馬は手塚を先に下ろし早く行けと言った。
それだけで城戸に何があったのか予想がつく。

迂闊だった

手塚は自分で自分を愚弄しながら廊下を走る。
途中、廊下を走ることを看護士や医者に注意されるが今は構っている暇はない。
今日は7月7日。
記憶を思い出してから1年。もう、自分でも殆ど忘れていた。
自分はあいつの腕の中で死んだのだ。それを城戸が気にしないわけがない。
そのことにもっと自分は注意しておくべきだった。
七夕の飾りつけ初日、城戸の様子がおかしかった事に気がついていたではないか。

ようやく城戸の部屋の前まで着くと、何時ものように確認する暇もなく、中に入っていく。
最後の扉を開けると、ベッドにはリュウガと竜也、看護士、そして、少し苦しそうに息をしながら力なくベッドに寝ている城戸の姿。

「城戸!!」
「て・・真司!!手塚だ!!手塚が着たぞ!!」

リュウガは慌てて手塚から城戸に視線を向けると、少し手を強く握りそう言った。
近寄って見る城戸の顔色は青白く、過呼吸であることが見て取れる。

「城戸!!」
「・・・て・・・塚・・・」

手塚の姿を確認すると、城戸は薄っすらと笑みを浮かべそのままゆっくりと瞼を閉じた。




「もう、大丈夫みたいね」
「ありがとうございます」

ようやく落ち着いた城戸は疲れたためか、今は眠っている。
リュウガや看護士が言うには、手塚が来るまで何をしても城戸の過呼吸は収まらず、どうしようもなかったのだそうだ。
そのことを聞きながらやはりもっと注意していなければならなかった自分に腹が立った。

何故、飾り付けの初日に自分は気がつかなかった?

看護師は何かあったら連絡を入れるように支持をして、部屋を出て行った。

「城戸・・・・すまない」

静かに眠っている城戸の額にはうっすらを汗が浮かんでおり、手塚はそれを持っていたハンカチでふき取っていく。
その様子を見ていたリュウガは手塚の頭を一発叩いた。

「っっっっっつ!?」
「何で来なかった!?」

竜也が手塚達を連れてきてから不安だった。
過去の記憶を前々から持っていた真司はあの時間にかなり感化されている節がある。
そのため、いつか引きずられるようなことが起きてしまうのではないかと、リュウガは思っていた。
勿論、そんなこと起きることがなければそれはそれに越したことはない。
しかし、もし何かあったら自分にはきっと何も出来なくなるだろう。
自分と真司が関わった時間は酷く短く、それだけに自分には今の真司を支えられる力が少ないのだ。
最悪の場合を考え、日々苦しんでいた。
しかし、今それが目の前で起きてしまった。
幸い症状自体は軽い方だったのだが、発症してから落ち着くまで時間がかかった。
真司は朝、手塚は来るだろうかと酷く気にしていた。
そして、昼過ぎに少しずつ元気がなくなり、3時に差し掛かったとき、いきなり症状が出た。
原因は手塚だと分かっている。
しかし、何時もであればもう直ぐで手塚は来るはずだった。
だが、何時もの時間を過ぎても手塚が来ない。
そして片っ端から電話をかけ、ようやくまだ学校に残っているという情報が入ったのが5時だった。
その間、真司は症状が治まることなくずっとベッドでぐったりと横になっていた。
急いで手塚の学校へと連絡を入れると同時に竜馬に迎えに行って貰ったのだ。

想像していた不安が現実となってしまった恐怖に、リュウガの手は震えていた。
その様子に手塚は何も言えずただただ黙っているだけだった。

結局その日、城戸は目を覚ますことはなかった。




「だから、俺はこの日だけはここに何が何でも来るんだ」

手塚は城戸を見ながら呟く。
その様子に、秋山は自分が記憶を取り戻す前の時間に嫉妬していた。

何故、自分はもっと早く思い出せなかった?
そうすれば、何らかの支えとなることが出来ただろうに。

そんな秋山に気がつき、手塚は小さく苦笑を浮かべた。

「そう、焦るな秋山。時間はこれから先立って十分にあるさ」
「また占いか?」
「ああ、俺の占いは当たる」

そう手塚が告げたところで、城戸がトレーに人数分の紅茶と、カンザキ兄妹から貰ったケーキを乗せ戻ってきた。




なぁ、秋山。
実は去年までの城戸はな、この日だけは俺が来るまで誰が起こそうとも起きなかったんだ。
俺という現実を見るまでは、恐怖で目を覚ませないのだと医者が言っていた。

それなのに、お前が現れた今年は違っていたんだ。




それがどう意味か、お前なら分かるだろう?








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手塚氏死にネタ・・・かな?
なんとかぎりぎりUP;










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