存在感。
少し曇りがちな6月も終わるこの頃。
平日の昼下がり、勿論のこと城戸は出社してアトリにはいない。
今アトリには秋山と手塚が店を切り盛りしていた。
「片付けも大体終わったか」
「こっちもテーブルは全部拭き終わったぞ」
洗い物を済ませた秋山とお客のいなくなったテーブルを拭いていた手塚。
丁度客の切れたこの時間。
何を話すわけでもなく、二人は黙々と片付けと掃除をしていた。
「なぁ秋山」
「何だ?」
ふと、手塚は口を開いた。
その手には、客が忘れていったのであろう、本に挟む洒落た金属製の栞があった。
「さっきの客が忘れていったんだろう」
忘れ物の籠に入れておけと、手塚に籠を渡した。
その小さな籠には、アトリに訪れた客が忘れていった小さなものを入れておき、客の目に付く場所に置いておくものだった。
「ああ。ありがとう」
籠の中に栞を入れる。
その中には未だに持ち主が現れることなく、鎮座している携帯のストラップの縫いぐるみや可愛いデザインの腕時計。
指輪もあった。
ピアスも入っている。
今まで持ち主に戻って行った物もあったが、多くは持ち主が現れず、こうして今でも籠の中で延ばされる手を待ちわびている。
この間は携帯のストラップである縫い包みだった。
入れてみたら結構存在感を感じたのだが、今は栞の影となり、かつてあった存在感は消えた。
物が増えて行くほどに、それまでの物の存在は薄れていき、どんどんと影を消していく。
新しいものが現れると、今までの古い物たちで存在感を分散されてしまうような、そんな気がした。
「俺達もこうして薄れていくんだろうか?」
「何?」
籠の中を見ながら呟かれた手塚の言葉に、秋山は訝しんで手塚を見た。
「あ、いや・・・この縫いぐるみのように、俺達のライダーとしての存在はどんどん薄くなって、粒子になるんだろうか、と思ってな」
手塚にしては珍しい弱音に、一層秋山は眉間にしわを寄せた。
「つまり、それはこの戦いに負けるということか?」
「・・・かもしれないな」
苦笑を浮かべる手塚の視線は、未だその籠へと向いていた。
「どうしたんだいったい?」
らしくない。
何時もの手塚は正直、何を考えているか表に出さないのが常であった。
しかし、今の手塚はそれ以上に訳がわからない。
「いや・・・これといってはない」
「・・・?」
多少延ばされた間に、疑問はあったが深く入り込むことはしないでおく。
下手に入り込むと、亡くした時が痛いのだ。
秋山は途中で止めていた片付けの仕上げを始めた。
「城戸は、強いな」
再び呟かれた言葉。
秋山は、聞く耳を持たないように黙々と手を動かした。
「どんなライダーが現れても、周りの存在感が徐々に薄れていっても、城戸だけは城戸のままだ」
今現在、ナイト、龍騎、ゾルダ、王蛇、ライア、後自分は知らないがシザースというライダーも居たらしく、合わせれば6人のライダーが出て来ている。
それだけ出てきたら、一人一人の存在感というのは多少なりと薄れていくのが世の常だ。
それは、それぞれの個性なり性格なりで、今までの人物が後ろに行ってしまうから。
だが・・・
城戸だけは、その存在が薄れてない気がする。
「・・・そうだな」
手塚の言葉に、秋山は片付ける手を休めないまま、小さく返事をした。
どんな立場に立たされようと、
『お前に、俺の何が分かるッ!?』
『わかっかよ!!でも、止めなきゃって思うんだから仕方ねーだろ!!』
城戸だけは城戸のままであり続ける。
しかし、秋山の死を回避したツケが回ってきたのか、次に運命が定めたのは、城戸。
『手塚!!』
『何すんだよ蓮!!って・・ちょ、聞けよお前!!』
『ありがとう、ユイちゃん』
ある日忽然と消えてしまった存在感とは、永遠の虚無を指す。
決して埋まることはない。
何せ、変わりなんか有りはしないのだから。
「秋山」
「・・・何だ?」
少し間を持ってから、答えた。
「城戸はこの先、どこまで行っても城戸なんだろうな」
「訳が分からん」
「そうだな」
そう言って手塚は小さく笑った。
仮に、存在感が強さだと仮定してみる。
存在感が薄まれば薄まるほど、強さは陰る。
それは、周りに強い存在感が現れてからである。
つまり、強いライダーが次々と現れるこの戦い。
最後まで残りきるには、薄まらず、己を強く固持するということ。
それが出来るのは多分・・・
「城戸だけだろうな・・・・」
運命を変える存在。
それほど強い存在感を持てる人物。
「秋山、俺は運命を変えたいんだ」
「耳にタコだ」
だから、次に死ぬのは・・・・
「お、おい・・・手塚・・?目を覚ませよ・・・なぁ・・・目を覚ませって・・・・手塚ぁああ!!!!」
―――――――――― 俺だ。
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実は、手塚の死にネタが好きだったりする狼・・・。てへ。