カウンター









50.幸せな夢を









見たいと思った世界があった。


見たいと願った景色があった。


――― けど、そこに私の姿は無かった。











カランカラン・・・

ドアを開くと小気味よい音が聞こえる。
木製の扉は少し重く、城戸は腕に力を入れて扉を開く。

「ちわーっす」
「あら、真ちゃん」
「また、来ちゃいやした」
「あんただったら、いつでも歓迎だよ」

入口から中に入り、いつもと同じカウンター席に座る。
勿論、座るところもいつもと同じ。

「あれ、あいつは?」

この時間、カウンターの奥の方で静かに本を読んでる黒い恰好をした男がいつも座っているのだが。
どうやら、今日はまだ来てないようだ。

「ああ、蓮ちゃんね。まだ来てないのよ」

成人した男を捕まえてちゃん付、最初は驚いたが、まあ馴れてしまえばどうってことない。
人生、慣れだ。
と、考えていたら、

カランカラン・・・

「あ」
「来てたのか」

やっと来た。







「御二方」
「お」
「・・・」

アトリを出て、向かう先が同じなのか二人肩を並べて歩く。

「手塚君」
「貴様か」
「え、蓮は手塚君知ってんの?」
「知り合いだ」
「つれないな、秋山」

二人が知り合いだったことに驚く。

「お・・・確か、城戸君・・・だっけ?」
「え・・・あ、北岡さん!」

手塚の店の前にちょうど車で通りかかったらしい北岡。
車から顔を出している。

「玲子さんに、いつでも取材に来てくれって伝えておいてよ」
「俺は、伝書鳩じゃないんですけど?」
「まぁまぁ。またおごってあげるから」
「喜んで♪」

と、北岡と話す。
その後、話しを無理やり秋山に中断されるのは言うまでもない。


手塚とも別れて再び歩くと、

 〜〜♪♪

ポケットに突っ込んでいた携帯電話から着信音が響いた。
どうやら、これはメールのようだ。

「何々?」

城戸はポケットに手を入れ、携帯を取り出すと、ぱかりと開く。
何となく、秋山ものぞき込んだ。

「・・・・俺、いつか首にされっかも・・・・」
「敏腕な下っ端が入ると大変だな」

メールの中身は今春入社してきた、芝浦淳のことに関して大久保が感想を送ってきたものだった。

 『真司ー、芝浦のやつはすごいぞ。島田と互角のプログラムが組めるわ、

  取材先でも中々話を聞き出すのがうまい!うかうかしてらんねーぞー。 ばい、カッコイイ編集長』

「何だよ・・・かっこいいへんしゅーちょーって・・・・」

と、軽く気落ちしているとき、

キキィィイイーッ!!

自転車独特のブレーキ音が響く。
それと同時に目の前を自転車が横切った。

「のわッ!!」
「っ!?」

何とかよけた秋山と、見事尻もちをついた城戸。

「・・・大丈夫だね、じゃ」
「アッ!!お、おい!!待て!!!」

自転車はそのまま何事もなかったように言ってしまった。
「何なんだよ!?」と憤慨していたら、

「と、東条ぉおーーー待ってくれよーーー!!!」

と、どうやら先ほどの自転車に乗った青年を追いかけているらしい青年が、息を切らして横切って行った。

「・・・・何なんだ?」
「・・・・さぁ?」

秋山の疑問に城戸も首を捻った。
本当に何なんだか。

また暫く歩くと・・・

「そこの」
「へ?」
「・・・?」

いきなり呼ばれて、立ち止まり振り向くと、何だかとても柄の悪そうなヤツが立っている。

「な・・何だよ・・・?」

喧嘩腰の視線に、こちらもない意地をついつい張ってしまう。
しかし、その男の視線は秋山と合っているようだ。
しばし、ガン付き合ってから・・・・

「邪魔だ、退け」

と、俺達の間を割ってさっさと行ってしまった。

「ったく、んとに何なんだよ」
「ふん」
「ってか、趣味悪いやつ。今更蛇柄ジャケットなんか流行んねーぞ――――!!!」
「馬鹿か」
「ッあて!!」

男が去ってった方に叫ぶ城戸に、秋山の拳が落ちた。
そのまま駅まで出てくると、駅ビルについている大きな液晶ディスプレイに何やら映し出されていた。

「あれ・・・あれって確か高見沢グループの・・・」
「会長だな」
「そうそう・・って、お前なんで知ってんの?」
「因みに38歳だ」
「へーそうなんだ・・・じゃなくて」

と、話していたら・・・

「あのーずみません、ちょっとお聞きしたいのですが・・・」
「どうしました?」

長い髪にスラリとしたスタイルのいい女の子に声をかけられた。

「交番はどこにありますか?」
「ああ、それなら・・・」
「どうせ、俺たちも向こうだ。途中まで一緒に行った方が早い」
「そうだな」
「ありがとうございます」

そうして3人で歩きはじめる。

「君、モデルかなにかしてるの?」
「城戸、失礼だぞ」
「あっそうだった・・ごめん、気ぃ悪くした?」
「いえ、気にしてません。本業は大学生だけど、モデルはやってますよ」
「やっぱり!」

少し不機嫌そうな秋山を引き連れ、尚も歩いていると・・・

「あ、靴紐が・・・・」
「え?」

丁度、城戸の靴紐が解けて危ない状態に。

「ほら、しっかり結ばないと」
「え・・あ・・って、自分でやるから!!」
「いいからいいから」

と、よくわからないうちに、その女の子に靴の紐を結ばれた。

「これで、よし!」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」

と、城戸と女の子が少しばかり良い雰囲気になったとたん、

「着いたぞ」
「え?」

秋山の言葉に振り向いたら、すぐそこに交番が見えた。

「どうかされましたか?」

出てきた制服の警察官。
その胸には、名札が付いていた。

「須藤・・・さん?」
「え・・あぁ、名札ですね」
「えぇ、珍しいなって・・・」

3人で、名札を見ていたらしく、須藤警察官は少し照れ笑いをした。

「地元の人に名前を覚えてもらって、もっと話しやすい交番作りをしていこうとことです」
「なるほど」

確かに交番は少し、近寄りにくいというイメージがある。
もっと、ご近所付き合いが出来るような交番があるとその周りの人達は安心するだろう。

「ありがとうございました」
「別に、大したことはしてないよ、なぁ?」
「ああ」

無事交番へと送り届けた女の子の礼に、城戸は照れ笑いを浮かべ、不機嫌まっただ中の秋山に話を振った。

「あ、そう言えば・・・」
「?」
「俺、城戸真司。んで、このいかつい奴が、秋山蓮」
「勝手に人の名前を出すな」
「あてッ」
「はははッ私は霧島美穂よ」
「美穂ね、今度また運がついてたら会おうよ」
「うん。運があったらね」

そうして交番を後にする。


駅前のスクランブル交差点。

「真司ぃいいいいーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「へっ・・・ぐへはッ!?」

いきなり大きな声で名前を呼ばれたら、何かが猛スピードで抱きついてきた。

「街ん中で会えるなんてやぱ俺達双子だよな!!やっぱり運命だ!!」
「リュウ・・ガ・・・ギブ、ギィイブッ!!!」
「城戸が死ぬだろうが」

城戸に張り付いていたリュウガは、不機嫌通り越して額に青筋を浮かべた秋山に引っぺがされた。

「げほげほ・・・・し、死ぬかと思った」
「何すんだよ?」
「こんな公衆の面前で恥ずかしくないのか?」
「んな恥ずかしがって、愛が語れるか!」
「ハッ餓鬼が」
「一歳違いだろうが。・・・ははーお前俺が真司にくっつくから悔しーんだろう?」
「!!」
「そうだよなー、兄弟とかじゃなきゃ公衆の面前しかも、男同志くっ付くのは怪しーもんなー」

にたり顔のリュウガに非常に悔しそうな顔を秋山。






用があるというリュウガと別れて。
また二人で歩きだす。

「んじゃ、俺こっちだから」
「ああ」

分かれ道。ここから先は違う道。

「また、明日な」
「ああ、明日」







  見たいと思った世界があった。


  見たいと願った景色があった。


    ――― けど、そこに私の姿は無かった。



           でも、それでいいのである。











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TVの最終回に映画メンバーもたした感じで書いてみたくて、頑張ってみました
結構、満足できました。






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