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46.忘れられない思い出







冬の寒空。
太陽が見えるにもかかわらず、その吹きすさぶ風は頬を冷たく冷やしてしまう。
ビルとビルとの間に出来た空間のカフェテリアの近く、手塚はいつものように店を開いていた。

「やっほ」
「ああ、城戸」

その手塚の前に現れた、青い上着を着た青年。

「今日は来ないんじゃなかったのか?」
「うん、他の取材があったんだけどさ、向こうの予定が変わっちゃったらしくてね」
「なるほどな」

手塚の取材を始めてかれこれ1週間。
城戸はすでに常連となっていた。

「なるほどって、どうせ占って今日俺が来んのわかってたんじゃねーの?」
「それは、企業秘密といっておこうか」

最初は巷で有名な占い師がいるという口コミからの取材だったのだが、実際に手塚と会うとまるで旧来の友に会うような気分になった。
それから取材プラス、プライベートを含め手塚に会いに来る城戸だった。

「ところで城戸」
「ん?」
「お前まだあまり眠れないのか?」

城戸の顔は少しやつれ、眼もとには薄らと隈ができていた。

「・・・んぅー、まぁ・・な」
「また、黒い男か?」
「そーなんだよ!!ちょっと聞いてくれる?!」
「・・・」
「そいつってばさ、甘いもん嫌いとか言いながら、俺が楽しみに取っておいたロールケーキ食っちまうし、 俺がやるなってことはやりやがって俺がやっとけって言ったことはやんねーんだよ!?どう思うよ!?」

いや、どう思うといわれても。
手塚は心の中でシャットアウトした。

「しかもさ、最初建て替えた3万さえも、迷惑料だのお前の世話代だので最終的には15万だぜ!?どんだけ暴利だってんだよ!!」

手塚は小さくため息ついた。
はてさてこの話に付き合うのはかれこれ何十回目だろうか。

「相変わらず、お前の中で印象が強い男なんだな」
「え・・・?」
「だってそうだろう?印象が強いからこそ、夢とはいえ、それほどはっきりとした映像をみるんだ」

夢は脳の片方が見せてるという。
基本的にきちんと覚えている記憶というものは両方の脳を使うことによって成立する。
だから、夢は朝起きた時などに忘れやすいのだ。
片方の脳だけの不安定な記憶だから。

「お前がそれほどまで強く覚えてる夢は、どんな意味があるんだろうな」
「・・・占って・・・」
「やらん」
「ケチ!!」
「前に、試そうと思ったんだがな。なんでだか止めたほうがいいと思ったんだ」

別に城戸を占うことは造作でもない。
面倒なわけではないし、興味がある。
だが、どうしても思いとどまる。
何故なのだろう。

「自分でもわからんがな」
「ちぇ」




「ま、そのうち会うだろう」
「本当?」
「そこまで忘れられない相手だ。きっと運命の相手だろう」
「なッ!?っちょ、男だぞ!?!?」
「おや、ジャーナリストが偏見を持つのか?」

手塚のしたり顔に、「うッ・・・:」と息詰まる城戸。











きっと、後もう少し。














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手塚君をもっと出したいと思う今日この頃。