37.いつか、また
七夕から3日後のある朝。
「・・・朝か・・・」
秋山はいつものように目を覚まし、カーテンを開ける。
「城戸、起きてるか?」
ここ最近、すっかりと塞ぎこんだ城戸は、カーテンを引き、ベッドに引きこもることが多かった。
「開けるぞ?」
一言断り、引いてあったカーテンを開けるが・・・
「・・・ん?」
ベッドは蛻の殻。
「あ、蓮おはよう!!」
「ああ」
一先ずリビングへと降りてきたが、其処にも城戸の姿は見当たらない。
「どうしたの蓮?」
「ユイ、城戸はどうした?」
「真司君なら裏庭にいるよ」
「裏庭?なんでまた・・・」
「昨日の夜、おばさんに使わせてくれって頼んだんだってさ」
「ちょっと見てくる」
「蓮!!ちょっと待って!!」
秋山を呼びとめる少女。
「何だ?」
「これ、真司君に」
そう言って差し出したのは、ラップに包んだ御握り。
「真司君、あれから何も食べてないんだ・・・」
せめて、これだけでも・・・
「分かった」
少女から御握りを受け取り、秋山は裏庭へと足を向けた。
「何してるんだ??」
「蓮」
裏にはの扉を開けると、城戸は土弄りに熱中していた。
まだ朝の時間だというのに、日差しは強い。
そのためか、城戸はどこか懐かしさを感じられる麦わら帽をかぶっていた。
「何って、見ての通りだよ」
そういって、薄らと笑う城戸。
秋山は自分の足元にある袋に気が付き、中身を見た。
「パセリ、セージ・・・ローズマリーに・・これはタイムか?」
「うん」
読み上げた種の名前。
城戸はそれらを育てるために朝から土を弄ってるようだ。
パセリ、セイージ、ローズマリー、タイム・・・・
何処かで聞いたような・・・・
「Scarborough Fairか」
秋山の言葉に、城戸は初めてこちらを向いた、
「やっぱ、蓮は知ってんだ」
「城戸・・・・」
「羊の角で耕やして、一面に胡椒の実ををまいて・・・・それが出来たら、彼は私の恋人」
「・・・城戸・・・」
足元の農具や工具、鉢に足をぶつけないよう、秋山は足を進めた。
「蓮・・・俺は―――」
「何も言わなくていい」
秋山は、城戸の被っていた帽子を深く被らせ、言葉を遮った。
スカボローの市へ行くのかい?
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム、
そこに住むある人によろしく言ってくれ、
彼女はかつての恋人だったから。
羊の角でそこを耕すよう言って、
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム、
それから一面コショウの実を蒔けと、
そうしたら彼は私の恋人。
できないと言うのなら、私はこう答える、
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム、
ああ、せめてやってみると知らせてくれ、
でなければあなたは決して恋人ではない
それは一説によると愛を引き裂かれた恋人同士の歌とも言われている。
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イギリスの民謡。
軽く10番ぐらいまで歌詞があります。
で、それを彼の有名な、サイモント・ガーファンクルがカバーいたしまして、
映画に使用しました。
この曲、狼は大好きです。
胡椒の部分の歌詞は、10番か9番辺りだったかな・・・?
そこが一番好きなのです。