28.二人きりの時間
アトリの店主から買い物を仰せつかり、城戸は近くの卸売小売店へと行くことになった。
それはアトリがよく使う店であり、店から歩いて20分程の場所にある店でもある。
正直愛車で向かいたいとこなのだが、スクーターだと頼まれた荷物を持つのはつらい。
なら車で行けばという意見も飛び交うであろう。
だがしかし、車は只今壊れてしまった椅子を一脚運搬するために秋山が使用中なのである。
そのため交通の手段はスクーター、自転車、徒歩の三通り。
しかし、スクーター同様多分自転車では荷物の重さでバランスを崩してしまうだろう。
そうなると瓶ものやら柔らかい食材等は悲惨になること請け合いだ。
勿論、その後は店主に怒られ罰として店の皿洗い・・・嫌、皿を割られると困るだろうから、一人でアトリの
床を磨きあげ、たぶんワックスまでする羽目になるであろう。
ここで金銭の要求がないのは、店主が自分にそんなお金の余裕がないというのを深く深く知っているからである。
ああ、世知辛い世の中。
といった考えを頭の中でリピートの勢いに走馬灯をしてみた城戸。
まぁ、結局のところ徒歩しかないのだが。
城戸は預かった店用の財布に資金が入っていることを確認して扉を開け外へと出た。
寒いこの時期、天気予報では毎日のように、今年の最低気温を更新していく。
吐く息も少しずつ白くなり、自販機で缶のコンポタージュを買うかココアを買うか迷うようになっていく。
時間は夕方。
あたりは日がもうすぐ沈み切ろうとしているオレンジ色。
そんな中、目的地の途中ちょうど見知った人物を見かけた。
「城戸」
「手塚君」
どうやら、今日はこの辺りで仕事をしていたようだ。
手塚はもう店を閉めるのか片づけを始めていた。
「今日は店仕舞い?」
「ああ、この辺りはもう帰宅途中のサラリーマンぐらいしか通らないからな」
誰も足を止めないんだ。
と、説明してくれた。
「ふーん・・・・」
手塚海之。(年齢24)
夏の終わり頃からアトリを訪れるようになり今や常連客となっている。
因みによく頼むのはアトリのオリジナルブレンドと手作りスコーンのセットである。
「城戸は買い物か?」
「そ。お使い」
「となると何時もの店か」
と、手塚はまとめた荷物を肩に担ぐ。
荷物を抱え店を開いた場所をもう一度見て、忘れ物が無いかを確認する。
「じゃぁ行くか」
「へ?」
そう言うと手塚はさっさと歩きだす。
慌てて後を追った城戸。
「行くって、手塚君も来んのか?」
「ああ」
城戸の質問に、静かな表情で一つ頷く。
そのまま二人で歩きだした。
特に話す事にもなく、二人で歩く。
残っていた日差しさえも既に落ちてしまい、今はもう暗闇が広がり、街燈が点々と光るのみ。
「寒いな・・・」
手塚の言葉。
「そだなー・・・・」
それに相槌を打つと、凍えてきた自分の手に息を吹きかけ温める。
そんな様子を見ていた手塚はいきなり城戸を手を掴んだ。
「ふぇッ!?」
「こうすれば暖かい」
しっかりと握られた手。
暖かい体温が掌を通し伝わってくる。
「・・・恥ずかしいんですが」
「暗いから分かりはしないさ」
上機嫌な手塚の声。耳まで赤くなるのを感じる。
そんな声を出されてしまっては、こちらとしても何も言えなくなる。
そのまま頼まれた店までの残り道を歩いて行く。
そんな日の暮れた冬の初め頃。
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第2弾が可哀そうな感じで終わったので、今回は二人で笑い合ってる話をと思い。
の、ぷち手塚祭第3弾をUP。
全部で5弾で行きたいと思います。
もうちょっと手塚と城戸をいちゃいちゃしたのを書きたかったな〜。