25.飲み込んだ言葉
「あれ?」
アトリのリビングダイニング。
そこにあるテーブルの上。
「なんか、懐かしいな」
少々古いタイプの便箋と封筒が置かれていた。
「誰のなんだろう?」
ユイちゃんであれば、もっと可愛らしく、今時のデザインを選ぶと思われるし、同居人のものとは・・・到底思えない。
なら、
「叔母さんのかな?」
少女の叔母のものか。
「・・・俺も手紙書いたっけ」
友達に。両親や祖父母に。
そして、
「そう言えば・・・ラブレター出して、返事が無かった事もあったな・・・」
高校の頃、とても気になっていた隣のクラスの女子に、頑張って手紙を書いたのだが返事を貰うことはなかった。
まぁ、今思い出せばかなり幼稚な文章だったから、逆に返事を貰ってしまえば赤面モノだったかもしれない。
「あの時、なんて書いたんだっけ?」
あの時書いた文面を思い起こす。
「確か・・・簡略な文章だったような・・・」
よくつるんでいた友達に簡略的に、分かりやすい文章を進められ、兎に角余分と思われる箇所を何度も削った。
そういえばあの下書きも、何処に言ったのだろう?
ふと、視線を動かすと、テーブルの端っこにペンが一本。
「・・・」
何となく、そのペンを手に取り、蓋をあける。
ペンを右手に構え、真新しい便箋に向かってみた。
簡略な文章。
けれど、分かりやすい文章。
「・・そうだ」
ペンを紙に走らせる。
『貴方が、好きです。』
ガチャリ。
「ッ!?」
いきなり背後で開いた扉に驚き飛び上がる。
「何馬鹿な事をやっているんだ?」
椅子から飛び上がった自分を馬鹿にしたように見てくる、同居人。
「な、なんでもねーよ!!ってか、急に入ってくるな!!吃驚するだろうが!!」
「リビングダイニングに入るのにノックが居るのか?」
「う・・・」
「ましてや、何時もノックなどと言う相手のプライバシーを立てることをしないお前みたいな奴から聞く言葉とは思えんな」
「な・なんだとぉ!!??」
と、何時ものように、遊ばれているのにも気づかず、喧嘩腰になりかけたとき、
「何だ、これは?」
同居人がテーブルの上にあった便箋に気が付く。
「こ、コレはなんでもない!!何でも無いんだ!!!」
慌てて、先ほど書いたページを切り取り、両手で丸める。
「怪しいな」
「あ、怪しいのはお前だろ!?」
言い返したとたん、表情の変わった。
「見せろ」
「っえ!?」
「見せろ」
どうやら先ほどの言葉にカチンと来てムキになったらしい。
自分の右手に持っていた紙球を同居人は無理やりとろうとして来る。
「ちょっわっ!!」
「さっさと寄越せ!」
どんどん追い詰められる自分。
このままでは危ない。
別に、見せても何も言われないのかもしれない。
しかし、相手がムキになればなるほど自分もムキになってくる。
「っ!!」
追い詰められ、もう逃げ場もなくとてもピンチ。
直ぐ傍にある窓から捨てようかとも思ったが、拾われれば意味が無い。
こうなってしまったら。
「あむッ!!」
「なッ!!?」
食べてしまえ。
もぐもぐもぐ・・・・
ごくん。
「・・・馬鹿が」
同居人は俺の行動に心底あきれ返ったようで、興味をなくしたように部屋を出て行った。
「はぁ〜・・・」
力尽き、壁伝いにしゃがみこんだ。
「まじぃー・・・」
初めて食べたが、想像以上に紙はまずい。
『貴方が、好きです。』
飲み込んだ言葉。
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